TSUKIKUSAで使用している革についての説明です。
TSUKIKUSAで使用しているメインの革は、イタリアのトスカーナ州(*1)にある、「BADALASSI CARLO社」というタンナー(*2 )で作られている、「ミネルバリスシオ」という革です。
この革は、イタリアの革職人が、バケッタ製法という古代のなめし製法を再現して作った、植物タンニンなめしの牛革となっています。
バケッタ製法では、牛の脚部から煮出した牛脂を革に浸透させてなめしていくという工程が特徴です。とても手間と時間がかかる方法ですが、その製法で作られた革は独特の透明感と、張りがあるのに柔らかい、他にはない質感に仕上がります。
なお、このリスシオ=liscioという単語はイタリア語で「なめらか」という意味だそうです。
その名の通り、この革の表面はしっとりとなめらかな手触りとなっています。
また、この革はショルダー革(*3)などと呼ばれますが、牛の肩まわりから、背中にかけての部分を使用したものとなります。
数多ある牛革の中でも、何故TSUKIKUSAでこの革を使用しているのか、改めて考えてみると、以下の3点が挙げられます。
1.色 2.繊維の密度 3.経年変化
まず、1の色についてですが、これはどんなに言葉で説明するより、製品の写真を見ていただく方が早いと思います。
鮮やかでありながら、柔らかく、透明感のある色合い。
他の革にはないこの色合いが、まずこの革に惹かれた要因です。
続いて、2の繊維の密度ですが、これは、私が革全般を見る上で、良し悪しの判断にしているところです。
このミネルバリスシオは、大変繊維がつまっているのが特徴です。
そのため、やわらかいのに、コシがあり、ある程度薄く漉いても強度があるので、製品自体を薄く仕上げるためにも重要な部分です。
革の裏側(=床面)を見ると、繊維のつまり具合がよくわかります。(写真左側が革の裏側です。)
繊維の荒い革では、毛羽立った感じになり、擦れるとボロボロと革の繊維が落ちますが、この革では裏もあまりザラザラしていません。
最後に、3の経年変化です。
タンニンなめしの革であれば、多かれ少なかれ経年変化はしていきます。ただこの革の変化はなかなか劇的です。色合いも大きく変わりますし、油分を多く含んだ革なので、特別なお手入れなどしなくても、普通に使っていたらしっとりとした質感で手に馴染んでいきます。
ものを作っている以上、お客様に気に入っていただきたい、長く使っていただきたいというのが、一番の思いですので、長く使った時に、より気に入っていく、手放せなくなるような素材を選びたいと思っています。
2年ほど使用して、経年変化したブルーの財布です。オイルなど入れず、自然に使用している中でこの色合いになりました。
以上の3点が、TSUKIKUSAでミネルバリスシオを使用している理由です。
尚、製品により、ついていたり、いなかったりしますが、裏地として使用しているブラウンの革は国産の牛革です。
こちらは、靴の内装としても使われることのある素材で、しなやかで手触りが良いこと、また、薄くしても強度が強いことから、この素材を使用しています。
(*1)トスカーナ州
= イタリアの中部に位置する州。フィレンツェや、ピサ、シエーナなどの古都を擁した、文化・芸術の中心地。また、タンナーや、革工房なども多く集まり、皮革産業の中心地でもあります。
(*2)タンナー
=製革所。原皮を加工して、なめし、染色をおこない革にするところ。ちなみになめす前が「皮」で、なめした後に「革」になります。
(*3)ショルダー革
=肩まわりの革。一般的にヨーロッパで作られる革は、肩まわりと、お尻まわりに分けられています。お尻まわりは厚みがあって、傷なども多いので、靴底などに使われることが多いそうです。一方、国産の革は背骨部分を中心に二等分にして、左右に分けられているものが一般的です。